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「PPAP」商標騒動について
(2017年1月27日)

<新着コラム> by 永露祥生

ピコ太郎さんの大ヒット曲である「PPAP」の語などが、大阪府内にある無関係の企業によって商標出願されていることがメディアで話題となっています。我々のような業界関係者からすれば、「またか・・・」「何をいまさら・・・」といった話題ではあるのですが、今回は大々的に報道されている印象があり、当該企業の実名や個人名についても明らかにされている点で、これまでとは事態が異なるように思います。


業界内では数年前からの問題

今回の企業(運営する元弁理士の個人も)は、数年前から大量の商標登録出願を繰り返しています。その出願する商標の中には、他人の商標を先取り的に登録しようとしているかのように思われるものや、流行語・流行曲やテレビ番組のタイトルなども多く含んでいることから、業界内でも以前から問題視されていました。今回マスコミで大きく取り上げられましたが、実は「今に始まった問題」ではありません


商標登録は「早い者勝ち」が原則

他人の商標を先取り的に商標出願することは、もちろん良くないことであり問題視すべきです。ただ、商標登録制度は「早い者勝ち」が原則であることから、商標出願を迅速に行なうという行為自体は責められるものではありません。「商標は、1日も早く出願してください!」とか「商標の使用を開始する前に、必ず出願を済ませてください!」と、我々弁理士が事業者の皆様に(煙たがられながらも)口をすっぱくして申し上げているのは、今回のようなケースに巻き込まれるリスクを回避するためなのです。

今回の「PPAP」のように、「明らかに他人の商標の先取り」なのが明白な出願であれば、おそらく審査において登録拒絶となるでしょう。しかし、先取りとわからないものや、偶然他人の商標と同じになってしまったものについては、登録を阻止するのは難しくなります。迅速に商標出願を行なう行為自体は、本来的は望ましいことです。他人の商標を「パクる」行為が問題なのです。


ほぼ100パーセントの出願が手数料未納

さて、「他人の商標を先取り的に商標出願する」ことも当然問題なのですが、さらに問題視すべきことがあります。それは、この企業および個人が、自らの大量の商標登録出願について出願手数料を支払っていないらしいという点です。

商標登録を受けるためには、登録申請(商標出願)をする必要があります。商標出願は、タダでできる手続ではなく、所定の出願手数料を支払わなければなりません。ですので、本来的には、この出願手数料を支払わなければ、適法な商標出願として成立しないはずです。

ただ、現在の運用上、出願手数料を支払わなくても、特許庁はとりあえず出願を受理してくれます。その後、申請人(出願人)に対して、期限を定めて「出願手数料を払ってくださいね。期限までに支払いがなければ、出願却下としますからね。」という内容の通知を行なっているのです。

今回問題となっている企業および個人は、自らの大量の商標出願について出願手数料を支払っていないと言われています。これは、特許庁が自らのホームページで、「最近、一部の出願人の方から他人の商標の先取りとなるような出願などの商標登録出願が大量に行われています。しかも、これらのほとんどが出願手数料の支払いのない手続上の瑕疵のある出願となっています」と掲載していることから予想できます。

ちなみに、当該企業および個人は、これまでに数万件の商標出願したと言われていますが、2017年1月27日現在で確認できる限りでは、会社名義で2件、個人名義で5件しか商標登録を持っていませんでした。

ですので、この大量の商標出願のうち、ほぼ100パーセントが出願手数料の未納によって出願却下になっていると考えてよいと思われます。出願却下になると、出願されなかったのと同じですから、これがどんな商標で何件あろうが関係ありません。一見すると、「結局なにがやりたいの??」という、「ピンポンダッシュ」的な行為なのですが、業界内ではこれに派生する問題に悩まされています


業界内で派生している問題点

もっとも迷惑を被っているのは、特許庁でしょう。出願手続がされた商標については、データベースで公開されることもあり、とりあえずデータ化されることになります。このデータの項目の中には、出願人が願書に記載した内容だけでなく、商標の読み方(称呼)や、類似群コード(※指定した商品やサービスのグループコードのようなもの)が付けられます。ある程度は自動化されているのかもしれませんが、おそらく人力による処理も少なくないと思われます。

そうすると、結局は出願却下となって、特許庁的には1円の収益にもならない数万件分の商標について、データ化作業をしなければならないということになります。この処理にかかる時間や人件費は、相当なものではないかと予想されます。

また、我々弁理士も、商標調査時などにこのような商標が発見された場合の対応に困ります。本音としては、「どうせ出願却下されるから、問題にはならないでしょう」というコメントを依頼人にしたいところですが、依頼人にはその事情や理由がわからないため、毎回丁寧に説明をしなければならないという負担が生じるのです。

当該企業や個人の出願した商標はそもそも無視する、といったやり方もあるかもしれません。ただ、何かの間違いや思惑で手数料が支払われ、これが実質的な障害となる可能性もゼロではありませんので、完全に無視することもできないのです。

このように、先取りされた企業や個人、特許庁、弁理士、その依頼人、すべての人々が迷惑を被っているというのが、本件の真の問題点と言えるかもしれません。


具体的な対策として

法律上、「商標登録出願を大量にしてはならない」というルールはありません。また、出願手数料が支払われていない出願でも、差し当たり特許庁は受理することになっていますから、出願人が当該企業や個人の場合に限って受理を拒否するということもできません。というわけで、これといった有効な対応策がないことから、業界内でも打つ手がないというのが実情でした。

今回、大々的に報道され、世の中の多くの人たちが「けしからん!!」という感想を持っているようですし、企業名や個人名も公表されたことから、ようやく何らかの本格的な対策が入るのではないかと個人的には予想しています。

以前から対策についてはいろいろ議論がされていますが、私個人の考えとしては、「出願手数料が10回連続で支払われない場合、1年間その出願人の商標出願手続を受け付けない」といったようなルールを定めてはどうかと思います。「10回連続で口座振替に失敗した場合、電子出願の利用が停止される」といったやりかたもあるかもしれません。

対策を考える上で必要なのは、現在のユーザーや故意ではないユーザーが不利益を受けないやり方で、このような問題点を解消できるかという点ではないかと思います。

企業や個人としては、自己の商標について1日も早く商標出願を行なうことこそ、1番の対策になると言えるでしょう。