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商標登録料は5年分?10年分?

<新着コラム> 2020年3月12日

最近、「商標登録料って、5年分ではないのですか?」という声を耳にします。
弊所でも、商標登録のお見積もりの際に、同じ質問をされることがあります。
なぜか、「商標登録料は5年分である」と理解している方が少なくないようです。

多くの弁理士、特に商標弁理士からすると、「いやいや、基本的には10年分を一括納付でしょう!」となるのが普通だと思いますが、なぜこのような状況になっているのでしょうか。

ある相談者に実際に聞いてみたところ、どうやら、インターネット上の特許事務所のウェブサイトに掲げられた料金表などに、「登録料(5年分)」のような表示がわりとよくあるのが、原因の一つのようです。そして、それに関する説明が十分にされていないことが、誤解の元となっているのかもしれません。

そこで、今回は、この「商標登録料」について見ていきたいと思います。
※なお、本コラムは「商標権の設定登録時の登録料」に関するものです。


1.10年分の一括納付が基本的

商標登録出願をすると、特許庁で登録の可否が審査されます。
そして、審査に無事パスすると、「登録査定」が出されます。
登録査定が出ると、その送達から30日以内に、「商標登録料」の納付が必要です。
登録料が納付されると、正式に商標権の設定がされ、「商標登録」が完了します。

なお、商標登録の有効期間(商標権の存続期間)は、登録日から10年間です。
ですから、商標登録料は、従来「10年分の一括払い」が原則となっていました

※「商標登録料」とは、商標登録のために必要となる総費用のことではありません。
初めて商標登録をされる方に誤解が多いようですが、「商標登録料」というのは、商標登録をするために必要となる費用のトータル額という意味ではなく、商標権の設定時に特許庁に納付する設定登録料(手数料的なもの)のことを意味します。
特許事務所の料金表などをご覧の際には、ご注意ください。


2.分割納付というオプション

上述のように、商標登録料は、従来「10年分の一括払い」が原則でした。
ところが、平成8年の商標法改正によって、これを2回に分割して支払うことが認められるようになりましたこれが、いわゆる「商標登録料の分割納付」です。

分割納付制度の導入により、現在では、登録査定が出た際の商標登録料について、①「10年分を一括で支払うか」②「5年分に分割して2回支払うか」を、出願人は自由に選ぶことができます。

分割納付とする場合、設定登録時には前半5年分の料金を納付し、商標権の存続期間の5年満了時点までに後半分の料金を納付することが必要です。

冒頭の「商標登録料って、5年分ではないのですか?」という声や、特許事務所の料金表で見かける「登録料(5年分)」といった表示は、この分割納付における前半5年分の料金のことを意味しているわけですね。

なお、分割納付として、存続期間の5年満了時点までに後半分の料金を支払わなかった場合は、所定の回復期間を経た後、原則として、その時点から商標権は消滅したものと扱われます。商標権の存続期間は10年間ですが、後半分の料金を支払い忘れると、途中で権利がなくなってしまいますので注意が必要です。


3.分割納付のメリットとデメリット

(1)分割納付のメリット

まず、商標登録をしてから約5年のタイミングで、その商標について、商標登録(商標権)を維持する必要があるかをチェックできることが挙げられます。

商標は、長く使われれば使われるほど信用が蓄積され、価値あるものとなります。
よって、通常、商標登録(商標権)が途中で不要となるのは考えにくいと言えます。
ただし、商標登録をした商標の中には、短期間しか使用予定のなかったもの、複数のネーミング候補をとりあえず登録したもの、使う予定はなかったが防衛的に登録したものなど、様々な事情・目的がある場合があります。

このような商標については、登録から5年のタイミングで、「もう必要ないかも」というケースも少なくありません。その場合、分割納付としておけば、後半分の登録料をあえて支払わないことで、不要な商標登録(商標権)を消滅させ、整理することができるわけです。

後半分の登録料を支払いませんので、もちろん当初から一括納付する場合よりも、費用をセーブすることができます。

費用という観点からみれば、設定登録時に予算が苦しい場合にも、とりあえず前半分のみを支払って商標登録を完了させるために、分割納付を利用するという手段もあるでしょう。特に、出願した商標の数が多く、一気に登録査定が出たような場合には、検討に値すると思います。ただし、後述するように、分割納付で支払う2回分の登録料の総額は、一括納付の場合よりも割高となりますので、トータル費用としてはむしろ高額となることに留意する必要があります。


(2)分割納付のデメリット

まず、期限管理の手間が増えることが挙げられるでしょう。
一括納付の場合は、次の更新期限だけに注意しておけば良いですが、分割納付の場合は、これに加えて後半分の登録料の支払期限にも注意しておく必要があります。

また、先にも少し触れましたが、分割納付で支払う2回分の登録料の総額は、一括納付の場合よりも割高となります。具体的な金額は、分割納付の場合で「(区分数×16,400円)×2回」、一括納付の場合で「区分数×28,200円」となります(2020年3月現在)。つまり、1区分の場合でも、トータルすると分割納付の方が4,600円も割高となるのです。

特許事務所に依頼をしている場合は、さらに注意が必要です
後半分の登録料納付について、サービス料金を請求される可能性があるからです。
(おそらく、多くの特許事務所では、1~2万円程度の請求が発生するでしょう。)
そうすると、一括納付の場合よりも、トータルコストは大きくかかってしまいます


4.私見 ~一括納付と分割納付、どちらにすべきか?~

商標は、長く使われれば使われるほど信用が蓄積し、価値も増すものです。
そして、いわゆる「ブランド」に成長し、「強い商標」となっていきます。
したがって、基本的には、長く使うことが前提であって、その間はずっと商標登録をしておくべきということになります。

ですから、弊所の場合、原則として「一括納付」をご提案しております。
商標登録のお見積もりをお出しする際も、登録料は10年分での金額です。

特に、会社のハウスマークや社名関連の商標であれば、迷わず「一括納付」です。
(多くの事業者は、最初からこれらの商標を変更する可能性など考えないでしょう)
このようなケースでは、分割納付とするメリットはまったくないはずです。

防衛的に商標登録をしたなどの場合でも、トータル費用の観点より、「一括納付」をご提案しております。ただし、不使用取消審判を請求されるリスクが高そうであれば、状況に応じて「分割納付」をご提案する場合もあります。

結局のところ、商標の態様や性質、使い方、商標登録をした目的などを総合的に考慮して、どちらの納付方法の方がより適切かを、ご提案する形となります。

余談ですが、弊所はこのような考え方ですので、ネット上で特許事務所の料金表に「5年分の登録料」のみを表示して、商標登録に必要なトータル費用を安く見せかけるような手法には疑問を感じます。このような料金表では、たいてい後半分の登録料や、納付サービス料金がかかることの説明はないはずです。同じ弁理士として、怒りすら覚えます。ご依頼をお考えの際には、この点にくれぐれも注意してください。
(そもそも、こういった依頼人を欺くような表示をすること自体、高い倫理観を持つべき弁理士のあるべき姿としてどうかと思います・・・。)

以上、本コラムが、登録料の一括納付と分割納付のご理解につながれば幸いです。