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商標関連ニュースで誤解しないために②

<新着コラム> 2020年8月6日

前回のコラムでは、商標関連ニュースに接した一般の方々の多くが誤解していると思われる、「商標登録出願」と「商標登録」の違いについて、主に取り上げました。

前回のコラムの掲載後、ある商標関連ニュースがまた大きな話題となりました。
ある企業が、「アマビエ」の文字を商標登録出願していることが判明し、ネット上で批判が続出して炎上。結果的に、出願の取下げに追い込まれたという出来事です。

「アマビエ」とは、妖怪の名称です。
この「アマビエ」は、コロナ禍において広く知られるようになりました。その後、「疫病退散にご利益があるシンボル」として、人々に親しまれ利用されています。
このように公共財産的な役割を果たし、誰もが使いたいと思うものについて、「商標登録をして独占しようなどけしからん!」というのが、騒動の発端と考えられます。

ここ数年でも、「PPAP」や「そだねー」が商標登録出願されて騒動になったことがありましたが、今回の「アマビエ」は、それら以上に公共性があると考えられますので、より厳しい目で人々の批判が集まったように思います。

ただ、今回も一般の方々の商標に関する誤解は少なくなかったように思います。
まずは、相変わらず「商標登録出願」と「商標登録」が混同されていました。
そして、当職から見たところ、それに加えての誤解もあったように感じます。

そこで、今回のコラムでは、引き続き、商標関連ニュースを誤解せずに正しく理解するための注意点を述べたいと思います。


1.商標登録の効果に関する誤解

一般の方々が商標関連ニュースに接した際に「よくある誤解」としては、前回取り上げた「商標登録」と「商標登録出願」の混同がありました。しかし、このような場面においては、これに加えてもう1つ大きな誤解が見受けられるように思われます。

それはズバリ、「商標登録の効果」に関する誤解です。

商標登録をするとどうなるのかという点が、一般の方々に正しく知られていない。
ネット上の意見や批判を見ていると、そのように感じることが少なくありません。

多くの人は、「商標登録がされると、何らかの権利が発生するのだろう。」と考えているようではあります。たしかに、それは間違いではありません。しかし、それが具体的にどのようなものか理解されているかというと、ノーと言わざるを得ません。

こういった場合、人は性質や関係性が近いものを連想して理解しようと努めます。
「商標登録」であれば、一般の方々は、知的財産権の中でももっとも身近な「著作権」を連想することが多いようです。そのため、商標登録によって生じる権利とは、著作権のような権利であると思い込んでしまうケースが少なくないと思われます。

そして、「著作権」というと、一般の人々にとっては、特にJASRACによる使用料徴収がイメージされることが多いようです。これにより、ある商標が商標登録されると、一般の人々がそれを使うことに対して、やめろと言われたり、使用料を請求されるのではないかという不安や心配を抱いてしまうようです。

こういった点が、たとえば前述の「アマビエ」が商標登録出願されたというニュースが話題になった際、出願をした某企業に対して、「理不尽だ!」とか「そんなに金儲けがしたいのか!?」などの意見が多く見られた要因の一つだと推測されます。

しかし、商標登録によって生じる権利と、「著作権」は全く別物です。
また、商標登録の効果についての正しい理解があれば、一般の方々が、「使うな!」と言われたり、JASRACのような機関から使用料を請求されるといったことはまずあり得ず、これらが無用な心配であることもわかります。

我々専門家からすると、商標登録について正しい知識を持っていない方が多いためか、ネット上の意見や批判の中には、「まったく見当違い」なものも少なくないと感じます。中には、「名誉棄損」に該当しそうなものもあり、心配になるほどです。

一般の方々が、商標について関心を持つことは大変すばらしいことです。
ですが、誤解により誤った意見や議論がされてしまうとすれば、もったいないです。
また、誤解に基づく意見や批判が多くなれば、さらに誤解は広まってしまいます。
ぜひ、以下をお読みいただき、「商標」と「商標登録」の理解を深めてください。


2.知っておきたい「商標」と「商標登録」のこと

(1)商標登録は言葉を独占するものではない!

商標登録をすると、「商標権」という権利が発生します。

そして、この商標権とは、ざっくり言うと「(商標登録をする際に指定した)商品やサービスについて、その商標を独占的に使うことができる権利」です。他人がその商標を無断で商品やサービスについて使った場合には、「やめろ!」と言ったり、損害賠償を請求したりすることができます。

ここで、「商品やサービスについて」商標を使うというのがポイントです。
商標権が有効なのは、商標を「商品やサービスについて」使う行為に対してです。

これを逆に言えば、商品やサービスとはまったく無関係な使い方であれば、商標権の効力は及ばないということになります。

たとえば、あなたがSNSで妖怪のアマビエについて言及したり、ブログに「アマビエ」というタイトルで妖怪に関する記事を書いたとします。これらは、妖怪であるアマビエについて述べているだけであり、何らかの商品やサービスに関連して「アマビエ」の語を使っているわけではありません。そうすると、仮に「アマビエ」が商標登録されたとしても、このような使用行為に対して、商標権を行使することは認められないのです。

つまり、商標登録は、言葉を独占するものではないのです。

これは、皆さんの日常生活における日々の言動を考えてみてもわかります。
たとえば、「ソニーのウォークマンを買った!」とか、「ユニクロのエアリズムが良かった」などという会話や文章表現は、誰もが当たり前のように行っていますよね。しかし、「ソニー」も「ウォークマン」も「ユニクロ」も「エアリズム」も、商標登録がされている文字です。もし、このような使い方をするだけで商標権が及ぶとすれば、世の中は大変なことになっているはずです。

ですから、商品やサービスとまったくの無関係であれば、たとえ商標登録がされた語を日常の会話や文章表現で使ったとしても、基本的に問題はありません。まして、JASRACのような機関が、「使用料を払え!」と迫ってくることなど1000%あり得ません。

※ただし、商品やサービスについて直接使わない場合でも、自分のビジネスで商品の広告物や取引書類、サービス提供のために必要となる物などに使う場合には、使い方によっては商標権が及びますので、注意してください。(もっとも、一般の方々が、このような使い方をするケースは、通常は想定できないと思われますが・・・。)


(2)「商標」とは「業として」使用するもの

商標権とは、商品やサービスについて、「商標」を独占的に使用できる権利です。
他人が無断で「商標」を使う行為に対して、権利を行使することができます。

では、ここでいう「商標」とは何でしょうか?

商標法という法律には、「商標」の定義があります(第2条1項)。
法律的な話が細かくなるとわかりにくいので、ざっくり言うと、「業として商品・サービスを取り扱う者が、それらの商品・サービスに使用をする文字や図形など」が「商標」だとされています。

ここで注目すべきは、「業として」という文言です。
この「業として」とは、「一定の目的の下に反復継続して」のような意味であり、営利目的は問われません。だいたい「業務として」という意味で理解すると、わかりやすいかもしれません。

「業として商品・サービスを取り扱う者」が使うのが「商標」となります。
逆に言えば、「業として商品・サービスを取り扱わない者」が使えば、「商標」の使用とは言えないということです。

商標の使用でなければ、基本的に商標権の効力は及びません。
あなたがSNSで妖怪のアマビエについて言及したり、ブログに「アマビエ」というタイトルで妖怪に関する記事を書くような行為は、通常は「業として」になるとは考えにくいでしょう。そもそも、商品やサービスについて使うわけでもないでしょう。このような観点からも、こういった使用行為に対して商標権を行使することは認められないのです。

結局のところ、少し乱暴に言えば、「自分でビジネスをしていない一般の人々にとっては、他人による商標登録はまず影響がない」ということです。

ですから、しばしば『「〇〇〇」が商標登録出願された』といったニュースが大きな話題となりますが、多くの一般の方々にとっては、ほとんど何の影響もないというのが実際のところだったりします。誰かがある商標を商標登録したからといって、事業者ではない一般の方々が商標権に基づいて「やめろ!」と言われたり、使用料を請求されたりということは、まずあり得ません。この点をご理解いただいた上で、感情的ではなく冷静に、こういったニュースに向き合っていただきたいと思います。

※なお、ビジネスを行っていない個人であっても、たとえばインターネット上で販売行為をしていたり、オークション出品をしていたりする場合、それらの状況によっては、「業として」とみなされる可能性も考えられますので、ご注意ください。また、たとえ「業として」でなくても、商標権以外の法律問題となる可能性もありますので、不正の意図や悪意をもった使用行為は厳にお控えください。


3.SNSの商標情報(bot)に踊らされないように

以上のように、商標や商標登録についてきちんと理解をすれば、ある商標について商標登録された場合に、事業者ではない一般の方々が商標権を行使されたり、使用料を請求されるのではないかなどといった懸念は、無用の心配だとわかるはずです。

『「〇〇〇」が商標登録出願された』といったニュースがしばしば騒動を引き起こしますが、多少乱暴に言えば、「仮にそのまま商標登録がされたとしても、一般の人々にはまず影響はない」というのが、実際のところなのです。

この点が理解されていれば、こういったニュースに対する多くの一般の人々の意見や批判の状況も変わってくるのではないかと思います。もちろん、企業の在り方やモラルといった観点から、一般の方々が声を上げることも大切だとも思います。ただ、それも誤解に基づく不適切な意見や批判ではなく、正しく議論されるべきでしょう。

ところで、そもそも「アマビエ」騒動のような商標ニュースは、どのような経緯でしばしば大きな話題となるのでしょうか。当職は、近年のSNSによる過剰な商標情報の提供が、その要因の一つではないかと考えています

近年、SNSの中には、商標登録出願がされた商標の情報を提供しているものがあります。たとえば、Twitterでは約4万フォロワーのいるアカウントもあるようで、ここではいわゆるボット(bot)が、出願がされた商標の情報を1件ずつ自動でツイートしているようです。良く言えば有意義な商標情報の提供ですが、悪く言えば商標情報の垂れ流しです。

これを目にした一般の方々が、「こんな商標があった!!」といったふう発見し、それがSNSやブログで拡散された結果、大きな話題に発展するケースが多いのではないかと、当職は推測しています。

ここでご注意いただきたいのが、前述のように、その商標が仮に商標登録されたとしても、事業者ではない一般の人々にはほとんど影響などないということです。日常生活で、その言葉の使用が制限されることなどありません。また、出願された商標が、偶然に何らかの語と同じとなるケースも十分にあり得るという点にも注意が必要です。このような場合に、誤解に基づいて過剰反応をすることで、出願をした企業の「名誉棄損」となる可能性も考えられますので、批判や議論は慎重に行うべきです。

さらに、ここで提供されている情報は、「商標登録出願がされた商標」であって、「商標登録がされた商標」ではないことにも注意してください。まだ「ただ出願されただけ」の状態であり、何ら実質的な権利は発生していません。この後の審査で、特許庁が何か問題があると判断すれば、しっかり登録拒絶となりますから基本的に心配ありません。

世の中の様々な商標を知ることは面白いですし、意見や議論も大切です。
しかし、こういった情報に対し、商標登録について誤解したまま過剰反応をすれば、見当違いな意見や批判をしてしまうおそれがありますし、無駄なエネルギーを使うことにもなります。

SNSの情報への反応は慎重に、踊らされないよう、お願いできればと思います。

<了>