| サイトマップ | | プライバシーポリシー |

お問い合わせはこちら

キャッチーなネーミングは諸刃の剣?

<新着コラム> 2021年11月30日

新しい商品やサービスのネーミングを考える際、短くシンプルで良い意味合いのある語(以下、「キャッチーなネーミング」と言います)にしたいと思う事業者の方も、少なくないのではないでしょうか。

キャッチーなネーミングには、既成語からなる場合と、造語からなる場合がありますが、いずれもビジネスで使えば「商標」となります。

ですから、ネーミングの採択にあたっては、商標制度や商標登録についても意識しておかないと、後々トラブルに巻き込まれるおそれがあります

この点で、キャッチーなネーミングの採用は「諸刃の剣」と言えます。
特に、既成語1語からなる場合は、メリットとリスクを十分に留意した上で、最終決定をすべきでしょう。そこで今回は、これらについて少し述べてみたいと思います。



1.キャッチーなネーミングにするメリット

キャッチーなネーミングにするメリットは、少なくありません。

たとえば、短くシンプルで良い意味合いのある語からなるネーミングは、顧客に覚えてもらいやすく、馴染まれやすいと考えられます。また、そのようなネーミングから、顧客が商品やサービスに抱くイメージ・印象も、自然と良いものになるでしょう。

また、商標登録にも成功し、うまくブランド化ができれば、非常に強いネーミングになると言えます。



2.既成語である場合に懸念されるリスク

一方で、注意しなければならないこともあります。
それは、こういったキャッチーなネーミングは、当然ながら「使いたい人がたくさんいる」ということです。特に、既成語からなる場合は、他人とカブる可能性が高まるでしょう。

たとえば、「SMILE(スマイル)」、「HAPPY(ハッピー)」、「MIRACLE(ミラクル)」、「LOVE(ラブ)」、「ANGEL(エンジェル)」などといった既成語は、事業者が使いたくなるものではないでしょうか。

「使いたい人がたくさんいる」ということは、それだけ他者との間でトラブルになりやすいとも考えられます。特に、「早い者勝ち」が原則である商標登録制度においては、これが顕著と言えるでしょう。

既成語からなるキャッチーなネーミングの採用を考える場合には、以下の点に留意しておく必要があるでしょう。



(1)商標登録が難しくなる可能性

「使いたい人がたくさんいる」キャッチーなネーミングについては、すでに他者によって商標登録されている可能性が高いと言わざるを得ません。

商標登録は「早い者勝ち」ですから、そのようなネーミングを商標出願しても、登録が認められないということも少なくないでしょう。特に、「SMILE(スマイル)」のような既成語1語からなる場合は、その可能性は高まるでしょう。

このような場合、登録ができないだけでなく、実質的には使用もできないことを意味しますので注意が必要です。そのまま無断で使用すれば、他者の商標登録によって生じた商標権を侵害してしまうことになるからです。この点には、要注意です。

なお、商標登録は、商品・役務(サービスのこと)の関係についても考慮されますので、他者の登録と商品・役務が異なれば、まったく同じネーミングであっても商標登録が認められる場合はあります。

しかし、たとえ陣取りゲームのような状況だとしても、特に既成語1語からなるキャッチーなネーミングについては、すでにほぼ「空きがない」ことは容易に考えられます。

このように、既成語からなるキャッチーなネーミングについては、一般的には商標登録がより難しくなると考えられる点に、十分留意しておくべきでしょう。外国でも事業計画がある場合は、当該国における商標登録が必要となる点にも注意が必要です。

対策としては、事前の商標調査が重要かつ必須と言えます。

なお、採用したキャッチーなネーミングが、商標出願で指定した商品・役務について、単にそれらの特徴、品質、内容などを意味する語にすぎない場合は、「識別力が認められない」という別の理由によって、商標登録は拒絶されます。



(2)商標トラブルや紛争に巻き込まれる可能性

なんとか商標登録に無事成功したとしても、それが「使いたい人がたくさんいる」キャッチーなネーミングである場合は、その後に何らかの商標トラブルや紛争に巻き込まれる可能性が、より高まると考えられます。

たとえば、商標登録がされていることを知らずに、そのネーミングを使った商品やサービスを取り扱う事業者が、次から次へと現れる可能性があります。その都度、警告などをして使用をやめさせるというのも、なかなか骨が折れるものではないでしょうか。市場やネット上での監視活動も大変です。

また、まったく同じではなく、似たようなネーミングや紛らわしいネーミングを使う事業者が次々に現れる可能性も考えられます。中でも、既成語1語のネーミングの場合に、何らかの語を追加されていたり、その派生語となるものであったりするとやっかいです。

たとえば、「HAPPY」を商標登録していて、「HAPPY 〇〇〇」とか「△△△ HAPPY」を使う事業者が出てきたら、どうにかしたいと感じるものではないでしょうか。また、「HAPPINESS」が使われていたらどうでしょうか。

近年の商標実務では、「商標が似ている」と認められる範囲は、かなり狭くなっています。ですから、こういった商標に対しては、きちんと商標登録をしていても「似ていない」という理由で反論されて、使用をやめさせることが難しくなる可能性も高いという点が懸念されるところです。

この点は、他者による使用の場面だけでなく、他者による商標登録についても同様です。 すなわち、「HAPPY 〇〇〇」とか「△△△ HAPPY」といったような商標が、「HAPPY」とは似ていないとして、次々に商標登録される可能性があります。

このような登録を阻止するためには、異議申立てをしたり、無効審判を請求して争ったりすることが必要になりますが、それにはそれなりの時間・費用・労力を費やすものです。しかも、うまくいくとは限りません。

キャッチーなネーミングを採用するということは、こういった商標トラブルや紛争への対応について、継続的に付き合っていく覚悟が必要だと言えるでしょう



(3)不使用取消審判を請求される可能性

なんとか商標登録に無事成功したとしても、それが「使いたい人がたくさんいる」キャッチーなネーミングである場合は、その後に不使用取消審判を請求される可能性が、より高まると考えられます。

不使用取消審判とは、商標登録をした商標を、願書で指定した商品・役務について、登録後3年以上継続して使っていない場合に、第三者からの請求によって登録が取消となる制度です。

なお、第三者からの請求がなければ、実際に使っていなくても自動的に取消となることはありません。また、商標登録が丸ごと取り消されるわけではなく、不使用が指摘された商品・役務についての登録部分が取り消されます(すべての商品・役務が指摘された場合は、実質的に丸ごと取消となることもあります)。

さて、「使いたい人がたくさんいる」キャッチーなネーミングについては、当然に、商標登録をしたいと考える人もたくさんいると考えられます

しかし、上述のように、商標登録をしようとしてもすでに「空きがない状態」であることが少なくありません。そこで、自身がネーミングを使用する商品・役務の部分について、不使用取消審判によって登録取消とすることで、「陣地を奪い取る」ことができるのです。

また、そのまま使ってしまうと商標権の侵害となってしまう場合に、それを回避するため不使用取消審判によって影響のある登録部分を潰そうとすることも、よく行われます。

ですから、「使いたい人がたくさんいる」キャッチーなネーミングを採用し、商標登録をすると、この不使用取消審判の請求を受ける可能性が高まることが予測されるわけです。

もちろん、たとえ不使用取消審判が請求されても、指摘された商品・役務に実際に使っていることを証明できれば、取消はされません。ですが、こういった証明対応も骨が折れるものですし、頻繁に請求されるとたまったものではありません。

キャッチーなネーミングを採用する場合、商標登録後にこういった面倒ごとが起こりやすくなる可能性についても、十分に留意しておくべきでしょう

なお、指定商品・指定役務をあまり広く記載しすぎないことで、対策となり得ます。



3.おわりに

以上見てきたように、商品やサービスについて、キャッチーなネーミングを採用するメリットは、少なくありません。

しかし一方で、そのようなネーミングが既成語からなる場合は、特に「使いたい人がたくさんいる」と考えられることから、様々な留意点があります。また、「使いたい人がたくさんいる」ということは、「商標登録をしたい人もたくさんいる」と言える点にも、留意する必要があります。

ですから、キャッチーなネーミングの採用には、それなりの覚悟が必要です
本当にそのネーミングを採用するかどうかは、慎重に検討することをお勧めする次第です。

個人的には、シンプルではあっても、造語的なものが良いのではないかと考えます。
今の世の中を見ても、造語からなるキャッチーなネーミングが成功している例が多いように思われます。長く続いているような有名ブランドも同様です。

もちろん、どのようなネーミングとするかは、本来その事業者の自由です。
ですが、ネーミングにあたっての留意点や注意点も決して少なくないということを、ぜひ覚えておいていただきたいと思います。本コラムが、少しでもお役に立ちましたら幸いです。