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小さな会社・お店に商標登録は不要か?

<新着コラム> 2020年7月10日

先日、書店で、あるビジネス書を手に取ってみたところ、
その一部に商標登録に関する記述がありました。(※著者は弁理士ではない。)

そこには、以下のような趣旨の内容が書かれていました。

小さな会社・お店は、商標登録は必要ない。
 商標登録は、事業が大きくなってから考えれば良い。

たしかに、一昔前はそのような考え方も、少なくなかったかもしれません。
しかし、現在は、誰もがネット上で簡単に情報発信をすることができる時代です。
今は、一昔前とは状況が違う。そのように考えるべきだと思います。

今回は、「小さな会社・お店に商標登録は不要か?」という点について、
当職の考えを述べてみたいと思います。


1.商標登録が不要な場合もたしかにあるが・・・

「小さな会社・お店に商標登録は不要か?」を考えた場合、
たしかに、不要な場合もあると言えるとは思います。

たとえば、完全地域密着で、宣伝広告もまったくしない、事業を拡大するつもりもない、ネットも一切使わない、商品・サービスを提供するのは地元の人だけ、口コミは一切禁止する、というスタイルなら、「商標登録は必要ない」と言えるでしょう。

このような場合、商品・サービスの流通はほとんどありませんし、ごく近隣の地元以外の人に商標を知られることが、まず考えられないからです。

このようなスタイルの小さな会社・お店であれば、商標登録をしていなくても、(後述の)他人に勝手に商標をマネされるリスクというのはほとんどないでしょう。また、使っている商標が、実は知らずに他人の商標権を侵害しているとしても、その侵害行為を権利者に発見される機会もまずないでしょう(もちろん、それが有名な商標と同じであったりすれば、地元の警察がやって来る可能性はありますが・・・)。


2.商標登録をしないリスクは小さくはない

しかし、上述のような、「完全地域密着で、宣伝広告もまったくしない、事業を拡大するつもりもない、ネットも一切使わない、商品・サービスを提供するのは地元の人だけ、口コミは一切禁止する」といった会社やお店は、今の時代に実際どれだけ存在しているものでしょうか?

現在は、インターネットを利用して誰でも簡単に情報発信ができる時代です。
小さな会社やお店はむしろ、ネット上でウェブサイト、SNS、通販・出店サイトなどを積極的に利用して、商品やサービスを提供したり、宣伝広告をしたりするのが基本戦略となるのではないでしょうか?

ですから、上のような商標登録が不要と考えられる小さな会社やお店というのは、今の令和の時代にはほとんどないと考えるのが自然ではないかと思います。
そもそも、上のようなスタイルでは、職人的要素がよほど強くない限り、もはや事業として成り立たないのではないでしょうか。

では、今の時代のやり方、つまり、ネット上でウェブサイト、SNS、通販・出店サイトなどを積極的に利用して事業を行うと、どのようなことが起こり得ると考えられるでしょうか?

まず、Google検索などによって、使っている商標は簡単に発見されます
また、その商標を使っている会社やお店も、すぐに特定可能と言えるでしょう。

たとえ、小さな会社・お店の商標であっても、ネット上のツールを利用すればするほど、多くの人たちの目に触れ、知られ、認識されることになるわけです。

そうすると、商標登録をしていないことで、以下のようなリスクが生じ得ます。


(1)他人に勝手に商標を使われるリスク

多くの人たちに商標を知られれば、当然マネされるリスクが生じます。
特に、商品やサービスの評判が良ければ、そのリスクは高まるでしょう。

仮に、他人に商標をマネされて勝手に使われた場合、商標登録をしていなければ、これを排除するのが非常に難しくなります。そのまま放置すれば、取引先やお客様は混乱し、信用の失墜は避けられないでしょう。


(2)他人に先に商標登録をされるリスク

マネをされるよりも深刻なのが、他人に先に商標登録をされてしまうケースです。

商標登録は、特許庁に出願をした順に認められるのが原則です(先願主義)。
たとえ、自分の方が先に使っていたとしても、他人がその商標を先に出願すれば、その他人に商標登録が認められてしまうのです。

商標登録が認められると、「商標権」という強力な権利が発生します。
それ以降、その商標を無断で使用すれば、後述の商標権侵害となってしまいます。
結局、商標変更を余儀なくされ、商標を「横取り」された形となるのです。

多くの人に知られると、このようなリスクがあることにも注意が必要です。


(3)他社の商標権を侵害しているリスク

商標登録をしていない場合、その商標の使用の安全性が確保されていません。

ですから、もし商品やサービスに使っている商標を他社が商標登録していたら、
その使用行為は、商標権の侵害となってしまいます

商標権を侵害すると、差止請求損害賠償請求を受ける可能性があります。
「知らなかった」とか「悪気はなかった」という言い訳は、基本的に通用しません。
また、刑事罰の対象にもなっており、場合によっては警察が動くこともあり得ます。

商標権の侵害が発覚すると、商標の変更は避けられないでしょう。
また、取引先やお客様からの信用の失墜も懸念されます。

なお、商標登録をしないリスクについては、以下のページもご参考ください。
 ※「商標登録をしないとどうなるのか


このように、小さな会社・お店が、ネット上のツールを当たり前に利用している今の時代においては、商標登録をしないリスクは、決して小さくはないでしょう。

たしかに、事業規模が小さい場合は、コストの関係から積極的には商標登録を考えられないという気持ちもわかります。しかし、事業を行うにあたっての「お守り」にもなる商標登録は、決して費用との割が合わないということはないと考えます。


3.成功したいなら、商標登録はやはり必須

商標に関するトラブルは、たいていは事業規模が大きくなってから起こります。

冒頭の著者のように、「商標登録は、事業が大きくなってからで良い。」という考え方も、費用対効果という面ではたしかに否定できません。ですが、現在のように、小さな会社・お店がネット上のツールを多用している時代においては、やはり「それでは遅い」と考えます

「事業が大きくなってからで良い」と思っていたら、他人に勝手にマネされたり、先に商標登録されてしまっていた、ということでは後の祭りなのです。

世の中を見ているとわかりますが、成功している事業者は、その規模を問わず、知的財産権を重視しているものです。そして、商標登録には、必ずそれなりに力を入れていると言っても過言ではないでしょう。

小さな会社・お店であっても、事業で成功したいなら商標登録は必須と考えます。
成功すればするほど、商標登録の大切さも実感できるようになるはずです。

ぜひとも、積極的な商標登録のご検討をお勧めいたします。


4.まとめ

「小さな会社やお店は、商標登録は必要ない。」とか、「商標登録は、事業が大きくなってからで良い。」といった考え方は、もはや一昔前のものと言えるでしょう。

小さな会社・お店が、ネット上のツールを当たり前に利用している今の時代においては、商標登録をしないリスクは、決して小さくはないのです。

事業で面倒・深刻なトラブルに巻き込まれないためにも、また、安心して大切な商標を使い続けることができるようにするためにも、ぜひとも積極的な商標登録をお勧めいたします。