| サイトマップ | | プライバシーポリシー |

お問い合わせはこちら

クリニック名の最近の商標登録出願傾向に関する考察

<新着コラム> 2022年11月7日

近年、クリニックの名称に関する商標登録が増えている印象があります。
当事務所でも、ご相談などを受けることが増えました。
では、「実際のところはどうなのだろう?」というのが、気になるところです。

そこで今回は、医師の先生方などによるクリニック名の近年の商標登録出願傾向について、考察をしてみたいと思います。

※ご注意※
以下で掲げる情報は、当事務所の弁理士がデータベース「J-PlatPat」を利用して、独自に調査を行なったものです(調査日:2022年10月31日)。調査の性質上、商標の件数などについては、実際の数と誤差がある可能性が考えられます(調査時期によっても、当然に件数は変動いたします)。また、拒絶査定となった出願であっても、今後、不服審判が請求されることで、最終的に商標登録が認められる可能性がございます。以上の点などを予めご留意の上で、本コラムの内容をご参考いただけますよう、お願い申し上げます。



1.クリニック名に関する現存する商標登録の数

本題に入る前にまず、クリニック名に関する現存する商標登録はいったいどのくらいあるのか、気になるのではないでしょうか。

医業のサービス分野を指定した、「〇〇〇クリニック」と読まれる商標登録の数を調べたところ、調査時点において、約1,214件あるようです。

なお、名称としては、「△△△クリニック 〇〇〇」といった構成のものや、「クリニック」の文字をあえて含まないもの等も多数あると考えられますので、実際には、もう少し多いでしょう。

全国にあるクリニックの数は、約10万と言われているようです。
そうすると、単純に考えて、商標登録と関わりのある先生方というのは、わずか1%程度ということになりそうです。

ただ、クリニックの名称というのは、そもそも識別力の観点から商標登録が難しいものも相当数あると考えられますので、この数字を少ないと見るかは微妙で、難しい話であるようにも思います。



2.クリニック名の近年の商標登録出願の数

次に、クリニックの名称に関する、近年の商標登録出願の数を見てみましょう。

こちらは、先に述べた「商標登録の数」ではなく、「出願の数」の話です。
すなわち、クリニック名について、どのくらいの数が特許庁に登録を申請されたのかということです。よって、実際に特許庁の審査をパスして登録が認められたものだけでなく、登録拒絶・却下となったものの数も含まれます。

当事務所の調査によれば、医業のサービス分野を指定した、「〇〇〇クリニック」と読まれる商標は、2020年には約161件、2021年には約251件が出願されたようです。今年2022年は、まだ途中までの数となりますが、9月末の時点で約198件が出願されているようです。

やはり、昨年2021年は、2020年に比べかなりの数が増えたと言えそうです。
今年も、このままいけば、昨年と同じくらいの件数になるように思われます。

件数が増えた理由としては、社会的状況の変化や、商標登録の重要性に関する認識の浸透などが考えられそうですが、実際のところは明らかではないと言わざるを得ません。



3.近年の商標登録出願の傾向に関する考察

それでは、このようなクリニックの名称に関する最近(2020年~2021年)の商標登録出願について、その傾向などを簡単に考察してみたいと思います。


(1)商標に関する考察

どのような商標、つまり、どのようなクリニックの名称が登録出願されているのかを、まずは全体的に見てみましょう。これにより、最近のクリニック名のトレンドというのもわかるかもしれません。

まず、「〇〇〇クリニック」の〇〇〇の部分が、造語的なものが多いと言えるでしょう。造語的なものとは、たとえば、「紫苑クリニック」のような名称です。

実際に、〇〇〇に入るものとしては、「空」とか「虹」といったような自然物に関する名称や、花や動物の名前などがよくあるという印象です。

なお、〇〇〇の部分が、先生の名字であったり、地名や地域名であったりする場合は、これらに標榜科名を付加した場合も含めて、識別力の観点から一般的に登録は難しいと言えますので、造語的な名称からなる商標が多い傾向となるのは、ある意味で当然だと言えます。したがって、この傾向については、必ずしも近年に限ったことではありません。

ただ、一見すると識別力が微妙に思える名称でも、登録が認められているものもあります。最近の例では、たとえば「金沢クリニック」(登録6412455号)や「待井クリニック」(登録6520472号)、「大阪外科クリニック」(登録6529471号)などが挙げられるでしょうか。一方で、「松倉クリニック」、「いながき乳腺クリニック」、「麻布クリニック」、「大井町メデイカルクリニック」などの文字のみの名称は、審査で識別力が認められず、登録拒絶の査定が出ています。

正直なところ、これらのボーダーラインがはっきりわかりません。
クリニック名の商標登録を検討するにあたっては、このあたりの事前予測が非常に難しいと言えます。

次に、その構成自体がかなりシンプルな名称が散見されました。
たとえば、「N CLINIC」(登録6400273号)、「Aクリニック」(登録6427818号)、「Wクリニック」(登録6453572号)、「S clinic Kyoto」(登録6545060号)などが挙げられるでしょうか。これらは、一見すると識別力が微妙なようにも感じますが、いずれも登録が認められています。現在の特許庁の審査では、あくまで全体で一つのクリニック名として考えられているものと思われます。

これらの例を見てもやはり、クリニック名の商標登録については、識別力の有無を事前に予測することが困難な場合も少なくないと言わざるを得ません。最初から「登録は無理だろう」と判断せずに、「とりあえず出願してみる」という姿勢も大切かもしれません

シンプルといえば、クリニックの専門分野をわかりやすく表した名称も散見されました。
たとえば、「おなかクリニック」のように、一周回って、あえて極力シンプルにしたような名称です。そういえば、当事務所の近隣地域(横浜市青葉区)にも、「お口クリニック」とか「爪と皮膚の診療所」といった名称のクリニックがあります。

ただ、こういった名称については、後述のように、やはり識別力のハードルが特に高いのが現状のようです。実際に、文字のみの「おなかクリニック」や、「大腸カメラクリニック」、「歯ならび矯正クリニック」などの名称は、登録拒絶の査定が出ています。

個人的には、ユニークなクリニック名となり得るような気もしますが、現状、やはり登録は難しいと言えます。なお、こういった名称について、どうしても商標登録をしたい場合は、後述のようにロゴ図形を付加した商標を出願するという手段も検討の余地があるでしょう。

さらに、女性医師の先生のお名前(名のほう)を付けたと思われるクリニックの名称も散見されました。
たとえば、「はなこ こども歯科クリニック」(登録6330665号)、「よう子 みんなのクリニック」(登録6355494号)、「医療法人馰野会\まりこクリニック(図形付)」(登録6417794号)、「eri clinic」(登録6434602号)、「さとこ皮膚科・美容クリニック」(登録6533791号)が、いずれも登録となっております。

たしかに、最近こういった名称のクリニックを身近でもたまに見かけますが、トレンドなのでしょうか。このような名称とすることで、女性医師が担当してくれることが患者さんにはわかりやすいですし、何となく親しみや安心感を得る患者さんも少なくないと思われます。


(2)日本語表記と英文字表記

クリニック名に関する全体的な出願傾向を見ていると、日本語表記と英文字表記の両方を出願しているケースが、最近では意外と多いという印象を受けました。たとえば、「紫苑クリニック」と「Sion Clinic」のどちらも出願するというイメージです。

「どちらも商標登録をしておく必要性があるのか?」という点については、いろいろな考え方があろうかと思います。名称の具体的な構成や、実際の使用状況等も考慮した上での話となるでしょう。

ただ、近年は、特許庁による商標の類否判断(商標が似ているかどうかの判断)が、かなり緩いケースもあります。特に審判段階までいくと、一般的な感覚では「かなり似ている」と感じるような商標同士でも「似ていない」と判断されることも少なくありません。ですので、一方を登録しない場合は想定外のリスクが残る可能性も否定できないことから、商標登録を弁理士などに相談した際に、こういった点も踏まえた上で、日本語表記と英文字表記の両方を出願することを提案されることが多いのかもしれません。

個人的には、現状を踏まえると、どちらの名称も実際に使っている表記であって、予算面でも特に大きな問題がないようであれば、両方を登録しておいた方が安心・確実ではあろうとは思います。


(3)やはり高い傾向にある識別力の壁

クリニックの名称としては、やはり「〇〇〇クリニック」の〇〇〇の部分が、先生の名字であったり、地名や地域名であったり、これらに標榜科名を付加したものであったりするのが、依然としてスタンダードかと思われます。

しかしながら、こういった構成からなる名称の場合、識別力の観点から一般的に登録は難しいと言えるのは上述のとおりです。

ただ、どうしても登録したい場合には、クリニックのロゴ図形(シンボルマーク)を付加して、これらをまとめて1つの商標として出願する方法があります。この場合、ロゴ図形の部分には識別力が認められるため、他に拒絶理由がなければ、商標登録を受けることができます。

もっとも、この場合はクリニックの名称自体に商標登録の効果が及ぶかはわからないことに、予め注意をしておく必要はあるでしょう。他人の使用行為に対して権利を行使したつもりが、ただの「言いがかり」になってしまうオチとなる可能性も十分に考えられます。

とはいえ、このような形であっても、やはり商標登録をしておけば、他者に使用を躊躇させたり、牽制したりできるという一定の効果はあると言えるでしょう。

こういった点もあってか、クリニックの名称に関する全体的な出願傾向を見ていると、クリニックの名称にロゴ図形(シンボルマーク)を付けて出願しているケースというのも、比較的多く見受けられます。概ね、全体の3割程度がロゴ図形付きの商標のようです

ちなみに、上述した、クリニックの専門分野をわかりやすく極力シンプルに表した名称については、ロゴ図形(シンボルマーク)を付けていることで、スムーズに登録が認められたと思われるものも見受けられます。近年の例では、たとえば「かた・ひざ・こしのクリニック」(登録6278477号)、「ひざ関節症クリニック\Knee Osteoarthritis Clinic」(登録6417941号)、「入れ歯クリニック」(登録6537994号)などが挙げられるでしょうか。

クリニック名の商標登録については、やはり識別力が問題となることが少なくないため、状況に応じて、しっかりと戦略を立てた出願をすることが重要と言えるでしょう。



4.最近の特許庁の審決例

最後に、クリニックの名称に関する商標について、特許庁が近年の審判において登録性を判断した事例をいくつか紹介いたします。ご自身の出願が同様の状況となった場合などにおいて、対応の参考になるかもしれません。


(1)「成城デンタルクリニック」(不服2019-16937)

当初、特許庁の審査では、「本願商標は、その構成全体から、『東京都世田谷区成城に所在する歯科の診療所に関する役務』の意味合いを認識させるにとどまるものであるから、その指定役務に使用しても、単に役務の質・提供の場所を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものというべきである」として、「成城デンタルクリニック」の識別力を認めず、登録拒絶と判断されました。

しかし、審決では、「成城」の文字が、繁華街や観光地等を表す地名として広く一般に知られているともいい難く、また、この商標は、その構成文字全体として、「成城デンタルクリニック」という固有の歯科クリニック(診療所)の名称を表したものと理解されるというべきであるとして、識別力を否定せず、最終的に登録が認められました。


(2)「丸の内クリニック」(不服2019-6173)

当初、特許庁の審査では、「本願商標をその指定役務に使用しても、これに接する取引者、需要者は、『東京都千代田区丸の内所在の診療所における役務』又は『東京都千代田区丸の内所在の診療所に関する役務』であることを認識するにすぎず、本願商標は、単に役務の提供の場所及び質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標にすぎないというのが相当である」として、「丸の内クリニック」の識別力を認めず、登録拒絶と判断されました。

しかし、審決では、「丸の内」の文字が、「東京都千代田区、皇居の東方一帯の地」の意味を、「クリニック」の文字が、「診療所」の意味を有する語として知られているとしても、両語を組み合わせた「丸の内クリニック」の文字全体からは、固有のクリニック(診療所)の名称を表したものと理解されるというべきであり、これが直ちに本願の指定役務について、その役務の提供の場所や質を直接的かつ具体的に表示したものと認識するとはいい難いものであるとして、識別力を否定せず、最終的に登録が認められました。


(3)「フレイムクリニック」(不服2021-13358)

当初、特許庁の審査では、「フレイムクリニック」は他人の先行する登録商標「FLAME」に類似するとして、登録拒絶と判断されました。

しかし、審決では、「本願商標に接する取引者、需要者は、その構成全体をもって不可分一体のものとして認識、把握されるものとみるのが相当である」から、「本願商標について、その構成中の「フレイム」の文字部分を要部として抽出し、その上で、本願商標と引用商標とが類似するとした原査定の判断は、妥当なものとはいえない」として、類似性を否定し、最終的に登録が認められました。



5.おわりに

以上、クリニック名の最近の商標登録出願傾向に関して、簡単に考察をしてみましたが、どのような印象を抱かれたでしょうか。

医業のサービス分野におけるクリニック名の出願数は、実際のデータを見ても増加していると言えそうです。今後も、ジワジワと増えていくのではないかと予測されます。

たしかに、日本全国のクリニックの数を考えると、その数は「わずか」と言えるものかもしれません。開業医の先生方からすると、実際のところ、業界や医師会の慣習などから、「商標登録まではやりにくい」というご事情もあるのかもしれません。

しかし、商標登録によって生じる商標権の効力は、日本全国に及びます
相手側が、必ずしも先生方と同じような方針で、理解があるとは限りません。
商標登録をしていないと、他院に先に登録をされて、名称変更を求められるリスクも十分に考えられます。特に、造語的なクリニック名を採用している場合には、注意が必要でしょう。

「自分の身を守る」というスタンスで、ご自身のクリニック名を商標登録することは、何もおかしいことではないと思います。この機会に、ぜひ出願をご検討されてはいかがでしょうか

なお、上述のように、クリニック名の商標登録は、識別力の観点からハードルが高い場合も少なくありません。しかし、特許庁の判断は曖昧なところもあり、我々商標の専門家からしても、「出願してみないとどうなるかわからない」と感じているのが正直なところです。

ですので、医師の先生方が、ご自身のクリニック名に関する商標登録に興味を持った際には、それがどのような名称でも、まずは専門家である弁理士に一度ご相談されるのがよろしいのではないかと思います。

最後に、医師の先生方の商標登録については、「お医者さんのための商標登録」のコンテンツも、よろしければご参照いただければと思います。当事務所へのご相談・ご依頼も、こちらのページにあるメールフォームより受け付けています。

また、主に近隣の開業医の先生方に向けてのものですが、商標登録をするメリットや、しない場合のリスク等をご説明した「【商標登録】青葉区・都筑区・緑区でクリニックを開院した先生へ」のコンテンツもございますので、よろしければご参照ください。